電子書籍の時代は本当に来るのだろうか?

オンザウェイ・ジャーナルの佐々木俊尚さんの回(2週目)を聴きました。前回同様、過渡期にあるメディア論は大変興味深かったのですが、中でもちょっと気になった点が。それは「村上龍さんの『歌うクジラ』の電子書籍は、横書きにも関わらずぜんぜん読みやすい」との見解。いや、もちろんここで語られているのは佐々木さん個人の感想に過ぎないのですが、それでもきっとそうなのだろうなと。なにしろ今日の日本語の文章には横文字が多々含まれているわけです。古典文芸書などはともかく、今どきの社会的な背景の文章には断然横書きの方が向いているはずです。

で、今さらなぜそんな当たり前のことを書くかというと、電子書籍の主役的なフォーマットであるePubの難点として「ルビが表現できない」「縦書きができない」という意見がよく聞かれるから。

確かにルビは日本語の書き文字文化を豊かにしてくれる重要な要素となっています。もし仮に人気漫画「ONE PIECE」なんかをルビ禁止にしたら面白さが目減りしてしまうような気がします。人の名前にしても、平易に読める字しか使ってはいけないとなると、何とも味気ないことになりますよね。

でも、縦書きの方は、そんなに必須というわけではないんじゃないかと。古典文学や文芸書が横書きでは雰囲気がそがれる思いを抱く人は多いかもしれませんが、誰もが目にしたことがある教科書を始め、横書き文書はそこら中に溢れているわけですし、慣れればどいうとうこともないのではないかと。事実、IT用語のように英数字が混在する今どきの文章では、むしろ縦書きは不利なわけです。中国なんかでもとっくに縦書きから横書きに切り替えてしまってるそうですし。

結局、ePubの縦書きうんぬんは言い訳として便利に使われているだけなんじゃないかという気がしています。皆ケチやら注文を付けたいんじゃないかと。

例えば出版社や著作者は、電子書籍による収益性が未知数、もしくは懐疑的、あるいは受け入れがたいほど厳しそうなので、なるべく先送りにしたい。そしてIT側に身を置く人は、様子見の方便に使っているか、あるいは来るべき日に自身が有利に立ち振る舞うべく表向きは牽制しているとか。「日本ではまだまだですねぇ」などと言いつつも裏では着々と対応を進めているような。

そして、「ルビ振りと縦書きさえできるようになりさえすれば…」を真に受けて、キラー的なニーズと捉えようものなら痛い目に遭いそうな気がしないでもないです。案外、それらが実現しても、やっぱり日本の電子書籍市場は、ごく一握りの有名作家(紙でも電子でも売れるような)の作品のみが売れる程度という状況が続く可能性もあるのではないかと…。

PagesでePub出力が可能に

本日、PagesのアップデートでePub出力がサポートされました。iBooksがePubを採用している以上いずれそうなると予想はしていたものの、次期バージョンでの対応だろうと思っていたので意外でした。

Pagesのアイコン

それにしてもePubの作成ツール、いつの間にか増えましたね。ざっと挙げるとInDesign、Sigil、FUSEe、Calibre、ECUB、Word 2 ePub、Aspose.Words for Microsoft Word、Pagesなど。探せばまだまだたくさんありそうです。PDFをePubに変換するタイプとしてもStanzaや4Videosoft PDF ePub 作成なんてものが検索でヒットします。もちろん今風にWebサービスも見受けられます。

何というか、WinとMacの最有力ワープロでePubが生成できるようになったことで、日本ではまだ市場が立ち上ってすらいない内から、早くもこの分野は飽和状態のような気がします。そもそもePubとは圧縮やら文書構造の明示やらにややこしいルールがあるものの、本体は10年前のHTML生成ツールで事が足りそうな代物です。一応、CSS3を駆使すれば高度なレイアウトも実現できるとのことですが、それではePubに求められているものとは違ってくるような気がします。Pagesでもページレイアウトされた文書からのePub生成はできなくなっていますし。

私も独自のePub生成ツールの開発には興味があったのですが、もしこれから新たなePub生成ツールをリリースしようと思えば、それは「車輪の際発明」みたいな話になりかねませんね。実際にはInDesignにしろ何にしろ、車輪ほどの定番感、枯れ具合はないわけですが、それでも「タイヤは26インチよりも25.5インチの方が便利なはずだ…」みたいな、いかにも頼りない僅かな差違でもって差別化を試みなければならないかもしれません。ちょっと見込みが薄そうです。