やっぱ電子書籍ってダメなんじゃね?

私は会社の業務で電子書籍ビジネスを興味深く見守っているのですが、どうにも成功への道筋が見えてきません。中にはヒット作品も出るのでしょうが、電子書籍時代といえるものが本当に到来するかというと…。

例えば紙の本の世界では、近年のベストセラー書籍として村上春樹さんの『1Q84』が挙げられます。昨年5月の発売から僅か2ヶ月で発行部数200万部を超えたメガヒット作品ですが、ちょっと思うところが。2巻で200万部超なら購入者数はざっくり100万人。凄い数ですが、日本の総人口1億2,700万からすると1%弱。つまり品薄感も薄れてきたあの時点で99%以上の日本人は大人気作品を購入していなかったことになります。この割合は第3巻が加わった現在でもあまり変わっていないはずです。

もっとも実際には家族や友人、あるいは図書館から借りて読んだ人やBOOKOFFなどで中古品を買い求めた人も大勢いるはずなので読者の総数はもっと多くなりますが、それでも新品を購入した人は国民の1%程度。逆に言うと「超ベストセラー作品ですら、対象となる人口の1%にしか買わせる力がない」ということになりましょう。

他の例としては、確か『ハリー・ポッターと賢者の石(シリーズ第一巻)』が発行部数で500万部を超えていました。小中学生の必読書的なポジションになれば人口の5%くらいまでにはアプローチできる計算です。

もちろん中には村上春樹作品もファンタジー作品も読まないけど、日ごろから本を買うことに抵抗のない熱心な読書家という人もいるでしょうから正確な数字にはなり得ないのですが、これらの例を踏まえて言えるのは「実際にお金を払って本を買う人の割合は、全人口の内のせいぜい数%程度」ということではないでしょうか。そもそも本が次第に売れなくなってきたから出版不況と言われるのでしょうし。

これを電子書籍に当てはめてみます。仮にiPadが100万台売れているとして、1Q84クラスの本でも潜在的な購買層の割合が1%なら最大数売れても1万部。当然、他の本だと数千部、数百部といった規模に下がるはずです。

iPadの他にもいわゆる電子書籍端末は続々と登場してきます。データフォーマットを汎用性の高いePubにすればiPhoneやその他のスマートフォン、それにPCも電子書籍リーダーとしてカウントできるので母数はさらに大きくなりますが、人々はそれらを必ずしも書籍用として買っているわけではないので当てにはできません。

その上、紙の本との食い合いも起こります。なにしろ本一冊はiPadよりも圧倒的に安く、貸し借りやBOOKOFFなどに買い取ってもらうことも容易ですが、電子書籍では難しいものがあるので相変わらず紙の本の需要は根強いとも考えられます。

だとすると、もし電子書籍の品揃えが充実してきたとしても、それこそ紙の本の発行を中止にでもしない限り、いつまでたっても電子書籍からは十分と思えるだけの収益が上がるようにはならないのではないかと。現段階でそこそこ売ろうと思えば、SNS的なサービスとからめてコミュニティとして守り立てるといったことが必要になりそうです。またコストが嵩んでしまいますし、本を読んで楽しんでもらうというよりも、仲間内で盛り上がるためのネタの提供みたいな位置づけになってしまいます。それは悪いことではないでしょうけど。

いや、出版社各社が次第に体力をすり減らせていけば、どこかで電子書籍オンリーに切り替え、そちらの方が都合がいいということも起こり得るかも知れませんが。

ああ、でもKindleの普及度が高く、iBookStoreも開始されていて、しかも街の本屋さんも潰れまくっている米国などでは電子書籍は急速に発展していくのかも知れません。また日本は趨勢から取り残されるのだろうなぁ…。