コナミスポーツが手放そうとしているもの

コナミスポーツのロゴ

コナミスポーツが来春でダイビング事業をやめてしまいます

もちろん私は同社の内情を知る立場ではないものの、それでも拙い決断を下したように思えてなりません。なぜなら、よりによって底堅い事業を切り捨てて先細りしそうな事業にリソースを集中させようとしているように見えるので。

「サービスツーリズム」という概念がありますよね。中でも最も有名なのは医療ツーリズムでしょうか。例えば中国の富裕層が日本に来て、自国では受けられない医療サービスを受けるといった感じのものですね。

そう、目的を明確に絞った旅行分野は大昔から行われており、この先も有望です。たとえ取り巻く環境が悪化しようとも「そのためにならお金を払っても良い」と思ってもらえるので。

一方で、漠然としたお買い物ツアーなんかは先行き厳しいでしょうね。中国人観光客が大型バスで銀座やらに乗りつけ、各人が何十万円も買い物して帰るなんてことはいずれ減るのではないでしょうか。この先、貿易や物流が発展すれば目ぼしいものは来日せずとも買えるようになるので。

これからの時代のキーワードは「他では得られないサービスを提供しているか?」および「個別のニーズに柔軟に対応できるか?」です。それは何も旅行に限った話ではありません。

コナミスポーツの主たる事業はもちろん全国90万人規模の会員を誇るフィットネス。でも、同社のフィットネスクラブは定番の4大要素を中核に成り立っています。

  • 有酸素系(エアロバイクやトレッドミルなど)
  • スタジオ(エアロビクスやヒップホップダンス、ボディパンプ、ヨガなど)
  • マシンジム
  • 水泳

これらのニーズを包括的に満たすように設計されているわけですす。つまり、大勢が似通った価値観と運動意欲を持っていることが前提のビジネスモデルです。

でも、最近では女性専用フィットネスのカーブスや街のヨガ教室なんかが流行っています。既にフィットネスに対するニーズは細分化しつつあるわけです。なるほど泳がない人にプールは要らないし、筋トレが嫌いなら本格的なマシンジムも不要です。ヨガやピラティスでも、総合フィットネスクラブのお試し的なそれよりも専門点の方が良いでしょう。それでいて総合フィットネスクラブよりも会費が安かったりもしますし。

プールなど過剰な設備を持たず、商業ビルの1フロアで少人数を相手に展開できるそれらでは、マンツーマンに近い小回りの利いたサービスが可能です。一方、施設が大きく、大人数を相手にした総合フィットネスクラブは、どうしても「放牧監視型」になりがちです。各人の個別のニーズに対応するのは短時間だけ、もしくは有料オプションという感じで。

加えて、昨今の経済状況からしてこの先も福利厚生を絞る企業は増えるので、必然的に総合フィットネスクラブの法人会員は減ります。そして「自費なら安いところに行く」という人は多いはずです。

今後、総合フィットネスクラブのビジネスは、先に挙げたような目的限定型の小規模フィットネスに容赦なく切り崩されていくことでしょう。あるとき再開発で商業ビルが建つと、その中に小規模フィットネスがオープンし、そちらのサービス内容で満足できる会員が続々と移るといった流れですね。

ただし、総合フィットネスクラブにも対抗策、生き残る術はあります。それは「メニューを充実させること」です。よそにはない多くの選択肢から選べ、自由に組み合わせできることこそが大型店の存在意義なので。

中でもプールを使うものが有望でしょう。これだけは小規模フィットネスでは到底真似できません。逆に、他の有酸素系、スタジオ、マシンジムなどは既存の商用ビルにも出店可能です。

よって、コナミスポーツがダイビングスクールを手じまうのは得策ではありません。というか、厳しい時代を戦い抜くための武器の一つを自ら放棄するに等しい、明らかな戦略ミスです。フィットネスの会員をダイビングに誘い、自前のプールで講習を行うなんてのは、小規模フィットネスや街のダイビングショップにはできない優位点だというのに。

おまけにダイビング事業はサービスツーリズムそのものです。スタッフが同行するショップツアーは主にビギナー&シニア向けのものですが、慣れない人、誰かに頼りたい人にとっては、費用がが高くなっても利用したいと思ってもらえます。ライセンスを取るまではもちろん、取った後も遠くの海に出かけて実際に潜る際の手厚いサポートは付加価値として確実にお金になります。

従って、もし私がコナミスポーツの経営陣ならば、いきなり廃止するようなことは絶対にやりません。ローコストな小規模フィットネスと競争条件面で足並みを揃えてどうするんだと。

仮にダイビングスクールを社内に抱え続けられないにしても、いったん分社化して様子を見ますね。高齢化が進む日本では、例えば「もう運動はおっくうだけど、南の海でのスキューバダイビングならやりたいと思う」というシニア層が増えないとも限らないわけです。もし全国19店舗が負担過剰なら適切な規模に再編成すればよいだけなのだし。

どうも経済界ではリストラをすると株価が上がり、経営陣が高く評価されるような風潮があったりしますが、それも有望な事業を残せてこそのもの。それができなかった国内大手電機メーカーは、いまや存亡の危機に見舞われています。

後になって「実はダイビングスクールが意外に重要だった」「ダイビング部門を残しておけば、生存競争に有利だった」などと後悔してみても遅いのだし。

コナミスポーツが手放そうとしているものは、彼らにとっての生命線の一端のように感じられてなりません。

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